利用者様の回復事例

その1 76歳のヒロシさん

現在76歳のヒロシさんは70歳の時に脳梗塞を発症。
1ヶ月半後には退院したものの、残ったのは右の片麻痺。
以前と比べ、日常生活では誰かの手助けがなければ難しくなったそうで、
初めてお会いしたときは、右片麻痺の影響もあってか、
1人では転びそうになるほど運動機能が低下したご様子だったのを覚えています。

発声が難しく言葉がはっきりとでない。
口がしまらず、頻繁に食べこぼしてしまう。
そして一番の変化として、すぐカッとなり暴れる。
そんなヒロシさんを心配しご相談に来られたご家族の方。
介護の負担は相当に大きいものだったのでしょう。

脳梗塞の発症後は運動機能も低下し、閉じこもりがちのヒロシさん。
そんなヒロシさんに外出の機会を、脳梗塞発症後から続くご家族の負担軽減、そして家での穏やかな生活をと、すずらんを利用していただくようになりました。

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その2 伝わらない、返ってこない

初めての利用日。
慣れない場所で落ち着かれないのか、椅子に座ってもすぐ立ち上がって歩こうとするヒロシさん。
その度に転びそうになり、スタッフは目が離せません。
「ヒロシさん、こちらで一緒にお茶を飲みませんか?」
と声をかけ、椅子に座っていただくよう促すと、一旦は腰掛けていただけるものの、またすぐ立ち上がってしまいます。

言葉もはっきりとしておらず、お互い初めてということもあって、コミュニケーションが思うようにいきません。
「体調はどうですか?」とスタッフの問いかけにも
「知らん」とヒロシさん。
『答え方が難しいのかな?質問を変えてみようか。』とスタッフが
「横になって休まれますか?」
と尋ねても、返ってくるのは
「知らん」

結局、利用初日にヒロシさんが落ち着かれることはありませんでした。

その後も、週2回すずらんに来られるヒロシさん。
しかし、落ち着いて過ごす日はありません。

座っては立ち上がり、立ち上がっては転びそうになる。
そんなことを一日に十数回も繰り返し、多い日には二十回を超えることも。
『何度言っても分かってもらえない・・・』
時にはご自宅にお迎えに行った際、すでに転ばれて怪我をされていることもありました。
別の日には、デイサービスのある3Fのフロアから2F・1Fへと歩きまわり、スタッフが1日中、片時も離れられない日もありました。
『他の利用者さまもいるんだし、ヒロシさんばかりに付いていられないんだけどな・・・』

脳梗塞の影響か、集団の中で圧迫感を感じるのか、
すずらんでのヒロシさんはいつも険しい表情や目つきをされていました。
さらに、物を投げたり振り回したり、移動の際に通りがかりに、利用者様を叩いてしまうということも。
ご自宅でも同様にパニックを起こしたり、暴れたりといった事も時々見られていたようですが、
すずらんでは特に顕著に見られました。

気分転換になればと
「散歩に行って見ませんか?今日は天気もいいし、景色もいいですよ。」
と声をかけても、表情は変わりません。
結局、スタッフは終始1対1でヒロシさんのそばを離れず対応しなければいけませんでした。

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その3 心で寄り添う

毎回ヒロシさんの利用日には、ミーティングで問題点や解決策を話し合ってきました。
「どうすればヒロシさんに安心して過ごしてもらえるんだろう…」
「何か原因があるんじゃない?」
ヒロシさんに落ち着いて楽しくすずらんで過ごしていただきたい。
そんなスタッフの思いに反して、決定的な対策は出てきません。

そこで、スタッフは寄り添う事から初めていくことに。
どんな時でも、穏やかに声をかけ、自分達が落ち着いて対応をする。
目線を合わせ、優しく声をかけ、腕をさするなどの、軽いスキンシップを取りながら
コミュニケーションをとる。

それからしばらく、スタッフは寄り添う事を心掛けて接しようと試みていました。
ただ、どうしても席についていただくことばかりに目が行きがちになってしまいます。
どのようにすればいいのか、頭を抱えてしまうスタッフ。
その後もミーティングを重ね、声のかけ方、誘導の仕方、試行錯誤が行われました。
そして、たどり着いた結論が、ただそばにいるだけでなく、気持ちから寄り添っていく事。

例えば、席についていただこうと思えば、自分達がまず椅子に座る。
それから「一緒に座りませんか?」と、ヒロシさんに声をかける。
食事も、満足感を味わっていただこうと、時間をかけてゆっくりと
そして、そのペースに合わせてスタッフも一緒に食事を取る。

常に安心感を与えられるように、ヒロシさんと一緒の行動を心掛けていきました。

加えて、運動機能の改善に行なっている、ストレッチや体操、レクリエーションなどを更に積極的に動かしていただくようにしていきました。中でも風船バレーは特に効果的だったのか、ヒロシさんは麻痺のある右腕も自然と動かして、少しずつ腕が上がるようになっていました。

利用開始から半年ほど経ったある日、スタッフがヒロシさんに声をかけようと、昔のこと、仕事をしていた時のことをキッカケに話かけると、表情が少し和らいでいるのを感じました。

はっきりとは聞き取れないものの、ヒロシさんもこちらの話に会話を返してくれます。
そんなヒロシさんの様子に、スタッフも真剣に話を聞こう、聞きとろうとしました。
以前は、話しかけてもそっけない反応しか返ってこず、言葉も聞き取りにくいヒロシさんに
決まりきった形での対応しかしていなかったスタッフ。
そんな対応にヒロシさんは敏感に反応していたのかもしれません。

しかし、自分の好きなこと、興味のあることをキッカケに
スタッフが真摯に話を聞こうとする姿勢、そして気持ちから寄り添うことを心がけた事によって、
徐々にではあるものの、ヒロシさんと私達とのコミュニケーションが生まれていきました。

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その4 一歩ずつ近づきながら

1対1での対応は続いていましたが、利用開始から1年ほど経った頃から、
ヒロシさんが少しずつ椅子に座る時間が長くなってきていました。

食事の際には少しずつこぼしながらでも食事をされるヒロシさん。
時折、見せていただく笑顔が、満足感を味わって頂いている
とスタッフの自信にもなっていました。

以前は昔の話、仕事の話をしても、表情が少し和らぐ程度だったヒロシさん。
しかし、決まりきった形の介助でない、心から寄り添う事を心がけたスタッフの対応の変化の影響か、
少しずつ表情を変え、明るく話そうとしてくださるように。

言葉はわからないことも多かったのですが、理解しようとスタッフが真剣な表情で耳を傾けると、
ヒロシさんもそれに応じるようにスタッフの目を見て話をしようとしてくれます。
時には言葉が途切れることなく数十分も続くこともありました。

通りがかりに近くの利用者様を叩いてしまう事も、歩行時(移動時)のスタッフの立ち位置、他の利用者と一緒にいるスタッフの配慮もあり、徐々に減ってきました。
送迎時にヒロシさんのご気分によっては、車に乗らなかったり、座席を蹴ったり叩いたりということもあります。しかし車の乗り方、送迎に使う車の大きさを考慮し対策することで、以前に比べ安全に送り迎えができるようになっていました。

ヒロシさんの様子次第ではあるものの、孤立させることなく、利用者様の輪に加わっていただき
コミュニケーション、交流を持っていただく。
スタッフのバランスの取れた配慮が徐々にそれを可能にして行きました。

「少し距離が近くなったような気がする」と話すスタッフもおり、
皆が変化を感じられるようになっていました。

一歩ずつ歩みを進めるように、ヒロシさんも、そしてスタッフも変わり始めていました。

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その5 楽しく過ごすすずらんでの日常

毎回の体操、ストレッチは欠かさず続いていました。
さらに、利用のない日はご自宅でひとりでも行なっているとご家族からの声。
その成果でしょうか、転倒の危険性はあるものの、スタッフがそばにつき、一緒にいるだけで歩けるようになってきていました。

言葉は聞き取りづらいこともありましたが、分からないほどではなく、会話の量も月日を追うごとにどんどんと増えていきました。
初めは興奮し、目つきや表情が険しく一人ぽつんと過ごされていたヒロシさんが、
隣にいる利用者様に
「どこから来たんや?」とか
「どこかであったことあるな」など
今では自分からコミュニケーションを取ろうとされる姿も。
スタッフだけでなく、他の利用者様との会話もスムーズになってきていました。

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その6 利用者様は鏡のように

利用開始時とは、すずらんでの過ごし方が変わってきたヒロシさん。
すずらんへ来られると椅子に座り少しずつ、こぼしながらでもお茶を飲まれるヒロシさん。
家族の事、昔の仕事の事そして日常の事をタレ目が特徴的な優しい顔で話をするヒロシさん。
その側には、他の利用者様とスタッフの笑顔がありました。

ご自分から積極的に人と接する姿も以前にもまして、ますます多くなりました。

ただ、積極的になりすぎて、女性スタッフにボディタッチでスキンシップを取ることもしばしば(笑)
スタッフも最初はビックリしていましたが、
「ヒロシさん、肩を揉んでくれたほうが嬉しいわ」
と自然な会話で対応します。

優しく柔らかい声のかけ方。返事の仕方。手の握り方。立ち振舞。
利用者様は心で受け止め、鏡のように私達の行動を映しだしてくれます。
私たちはそんな思いをいつも心に留めながら、ヒロシさんをはじめ、利用者様皆様に接しています。

  

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